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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)364号 判決

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人中村喜一名義の上告理由第三点および第四点について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、(イ)岩手県宮古市大字崎山第八地割字石釜一八二番の二山林の前々主斉藤徳助(一代目)が大正八年頃本件係争地に、これを自己所有の右山林の一部であると信じて、杉苗多数を植えつけ、その後その刈払い等の手入れを続けて右植林の育成に努めてきたと認定し、一方において、(ロ)右植林後間もなく、佐々木末子松が、同所一八二番の三山林の当時の所有者佐々木熊太郎に頼まれて、右徳助が植え残した本件係争地の東南隅に杉苗若干を植えつけたこと、佐々木鉄哉ほか一名が大正末年または昭和初年頃同所一八二番の三の所有者である上告人先代佐々木松助(第一審被告)の依頼を受けて前記杉苗の成長した林の刈払いをしたこと、工藤喜造が昭和初年頃右松助の承諾を得て本件係争地内から桑葉を採取したことをも認定したうえ、特段の理由を示すことなく、右(イ)(ロ)の事実の間には矛盾がないとして、右徳助が昭和五年末まで本件係争地の単独占有を継続したことを認め、これを前提として、右徳助の本件係争地に対する所有権の時効取得を認めたのである。しかし、一定範囲の土地の占有を継続したというためには、その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならないのであるから、右各認定事実のもとでは、占有の範囲についても、その態様についても、直ちに徳助の単独占有が継続したとすることに首肯しがたいものがあり、この点に関し原判決の説示するところには、理由不備の違法があるといわなければならない。

さらに、原判決は、右徳助の右時効取得を認めるにあたり、同人が本件係争地が一八二番の二の一部であると信じたことに過失がなかつたとしながら、その具体的事由を示すところがない(近隣地所有者である佐々木金十郎および横田清義が本件係争地は右徳助の所有であると思い、または他からそのむね聞き及んでいたとの説示をしているけれども、このような事実は、右徳助自身が本件係争地が自己の所有に属するものと信じたことについての過失の有無を判断するための事由とはならないというべきである。)。したがつて、原判決は、この点についても、理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。

それゆえ、論旨は理由があり、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)

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